M&Aとコーポレートファイナンスのセミナー

M&Aとコーポレートファイナンスのセミナーというものに出席した。
目的としては以下の3つ。

  1. 主催される方が投資銀行やVCのご経験が豊富な方だったので、シード→アーリーステージにおける、VCの企業価値の算定方法等の実例や、VCからの資金調達に伴うデメリット的裏話のようなものが拾えたらよいなぁという事。
  2. 中小企業診断士受験生時代に吐くほど勉強して、それなりに(あくまでも2次で敗退した診断士受験生なりに)モノにした感をもっていたファイナンスの知識も、使うあてのない部分はどんどん記憶の彼方へ消えていっているので、少しでも復習できる機会になればよいなぁとか。
  3. 主催者の方や、集まってくるであろう方々の、優秀さというかを目の当たりにして、打ちのめされつつモチベーションを高めたいなぁ等。(何せここ最近はほぼ一人で仕事をしているので)

どれもセミナーの趣旨からはちょっと外れている気はするが、しっかりと目的は遂げれたと思う。
主催者のお二方と、ダイヤモンド社のご担当者様、どうもありがとうございました。このような機会を無償で与えていただけた事に心より感謝申し上げます。
ただ、僕にはあまりその場に対してフィードバックする持ち物が無かったのが申し訳なかった。

今回特にファイナンス理論の話を聞きながら、自分なりに色々と考えて、教科書的な学習をした後にそのファイナンス理論を自分の身近なところで使ってみようとする時に感じる理論は理解しているが「使い方がわからない」と感じるときのポイントが何となく整理できた。

例えば、DCFとか収益還元法等が良い例だと思うのだが、勉強する時は分母は常に長プラか、与えられたものすごくざっくりした割引率であることが多い。それを使って、ある割引率が与えられた場合の今後のキャッシュフローの現在価値の算出方法を学ぶ。

で、僕みたいに取りあえず新しい事を学ぶといろんなことに使ってみたくてたまらなくなるタイプだと、実際に「よーし、この間株を買ったあの企業の現在価値をDCFを使って出してみるか」とか「自分の所属する事業部の現在価値を収益還元法でだしてみっか!」とか「コストダウンを実現する為のこの稟議、コストダウン分をキャッシュフローと捉えてDCFで理論武装して決済迫るか!」等と考えて”使って”みようとすると思う。

この”使って”みようとするフェーズで、僕のようなイワユル教科書的な知識しかない人が一番躓くのは「で、この場合割引率は何パーセントでやればいいの?」って所だったり、「この場合、将来のキャッシュフローってどうやって予測するのが正しいの?」だったりするんじゃないだろうか。そしてわからないから取りあえず練習問題にあったように、長プラや問題集で以前与えられた数字なんかで計算してみるのだが、なんかまともな数字にならない、なんてことはきっとあるはず。(それとも、ぼくだけかなぁ。)

弁護士がプロフェッショナルとして法律を使いこなす為には、法律そのものに加えて、判例にどれだけ精通しているか、あるいは必要な判例をどれだけ効率的に検索し収集できるかという事が大きなファクターであるのと同様に、当たり前だが、ファイナンス理論を使いこなす為には公式とか理論を理解する事に加えて、様々な業種のデューデリの経験があり、あらかじめ肌感覚の値ごろ感を持っているとか、ある業種でこれまでどのような評価がされてきた事例があるかといった事を効率的に検索し収集できる力が重要で、プロフェッショナルとしての価値の源泉としてはこちらのほうが大きな部分を占めているんじゃないかと思う。

だからそういう後者の力のない理論だけさらった僕みたいな人は"結論を導くこと"を目的としてファイナンス理論を使おうとするから、その前提となる割引率やら成長率なんかが与えられていないとニッチもサッチも行かなくなるが、逆にそういう力を持っている人にとっては、ファイナンス理論は自らの経験やリサーチから"はじき出した結論"を検証したり、より輪郭をはっきりさせたり、裏付ける為のロジックとしての使い方になっている事が多いように思う。

だから今の僕にとって、ホントに貴重な情報は、実際の現場でどんな値付けや、期待値がはじかれているのかという事例で、例えばゴルフダイジェストオンラインの創業者の方の本に
「資本金が○千数百万で売上げが60万円しかない時に、VCがプレ10億、ポスト12億の評価をして2億出資してくれた。シェアは○○%」という記述があった時には、この一行があったからこの本買ってよかったと思ったくらいなのだ。

以前アイスタイルの吉松社長のセミナーに行ったときも、売上げがたっていないシードの段階で、額面の何倍でVCが幾ら出資したかという話が聞けたが、それもすごーく参考になった。

今日もセミナーの最後の5分くらいで、上場までの資本政策の実例の説明があって、僕としてはこの5分くらい価値のある5分はないなぁと思ったりした。
それくらいに理論や公式の話は幾らでも手に入るのだけれど、それがどのように現場で使われているのかという部分については、あまり知る機会が無いのが実情だなのだ。

書いているうちに主題がずれたような気がするが、多くのファイナンス理論だけを学んだ人が最初にぶつかる壁の正体と、プロフェッショナルはやっぱりプロフェッショナルで、そこに到達する為には経験と研鑽が求められるわけで、何か魔法の鍵のような定型的知識を持っていれば、何とかなるといった世界ではないのだという事が改めて自分の中で合点がいったという事を書きたかったのでした。